配線工事における電気工事士資格の要否について

先日の塗装ブース制作に関連して。

後世に知見を残しておきたい。
間違いがあったら指摘してほしい。

換気扇スイッチ作成に伴う作業

電気に関連する工事は以下の3種類がある。

  1. 電気工事士等の資格が必要な作業
  2. 電気工事のうち軽微な作業
  3. 軽微な工事

このうち2, 3は電気工事士の資格は不要である。詳細は経済産業省の「電気工事の安全」ページを参照いただきたい。

換気扇のスイッチを作るにあたり、発生する作業は以下の通り。

  • ❔IVを切断
  • ❔IVの被覆を剥く
  • ❔IVをスイッチに接続
  • ❔ダイレクトコンセント用コードをスイッチに接続
  • ❔IVを電線コネクターに接続
  • ❔ダイレクトコンセント用コードを電線コネクターに接続
  • ❔IVを換気扇に接続
  • ❔スイッチを露出増設ボックスに収める

頭に❔がついているのは、この文章の中では電気工事士資格の要否が不明なため。これを⭕や❌に変えていく。資格不要で作業できる場合には⭕。
なお、本稿で言及する電気工作物は一般用電気工作物であり、これをカバーする資格は第二種電気工事士資格である。以下、電気工事士と言う場合は第二種電気工事士を指す。

まず、電気工事士法の逐条解説のPP.4-5には以下のようにある。

なお、「自家用電気工作物の保安上支障がないと認められる作業」とは 、当該電気工事の作業が極めて容易であ って 、そもそも施工不良が発生するおそれがほとんどないもの、第一種電気工事士が行う作業を補助する作業等をいい、具体的には 、受電設備等に係るさく、へいを設置する作業、電線の被覆を除去、ないし電線を切断する作業の電気工事の準備作業、がいし等の電線支持物を設置する作業等が該当する。

電気工事士法の逐条解説(強調は筆者)

「一般用電気工作物の保安上支障がないと認められる作業」とは 、先に述べた自家用電気工作物のそれとほぼ同様である。

電気工事士法の逐条解説

よって、IVの被覆を剥いたりIVを切断する作業は、「一般用電気工作物の保安上支障がないと認められる作業」であり、2.の「電気工事のうち軽微な作業」に該当し、電気工事士の資格は不要である。

  • ⭕IVを切断(軽微な作業)
  • ⭕IVの被覆を剥く(軽微な作業)
  • ❔IVをスイッチに接続
  • ❔ダイレクトコンセント用コードをスイッチに接続
  • ❔IVを電線コネクターに接続
  • ❔ダイレクトコンセント用コードを電線コネクターに接続
  • ❔IVを換気扇に接続
  • ❔スイッチを露出増設ボックスに収める

続いて、電気工事士法施行規則第2条第1項の「電気工事士等でなければ従事できない電気工事の作業」に次のものがある。

 電線相互を接続する作業(電気さく(定格一次電圧三百ボルト以下であつて感電により人体に危害を及ぼすおそれがないように出力電流を制限することができる電気さく用電源装置から電気を供給されるものに限る。以下同じ。)の電線を接続するものを除く。)

 配線器具を造営材その他の物件に取り付け、若しくはこれを取り外し、又はこれに電線を接続する作業(露出型点滅器又は露出型コンセントを取り換える作業を除く。)

電気工事士法施行規則

スイッチは配線器具であることから、上記より、スイッチに電線を接続する作業は電気工事士でなければ従事できない。よって、IVをスイッチに接続する作業、ダイレクトコンセント用コードをスイッチに接続する作業は電気工事士の資格が必要となる。

また、2本の電線を電線コネクターを介して接続する作業は、上記の「電線相互を接続する作業」に該当する。このため、IVとダイレクトコンセント用コードを電線コネクターを介して接続する作業は電気工事士の資格が必要となる。

  • ⭕IVを切断(軽微な作業)
  • ⭕IVの被覆を剥く(軽微な作業)
  • ❌IVをスイッチに接続(配線器具に電線を接続する作業)
  • ❌ダイレクトコンセント用コードをスイッチに接続(配線器具に電線を接続する作業)
  • ❌IVを電線コネクターに接続(下の項目と合わせ技一本で電線相互を接続する作業)
  • ❌ダイレクトコンセント用コードを電線コネクターに接続
  • ❔IVを換気扇に接続
  • ❔スイッチを露出増設ボックスに収める

この時点で結論としては電気工事士の資格が必要ということになってしまったが、残りのものも判定していく。

さて、電気工事士法施行規則第2条第1項に定められている、「電気工事士等でなければ従事できない電気工事の作業」に次のものがある。

 電圧六百ボルトを超えて使用する電気機器に電線を接続する作業

電気工事士法施行規則

これ以外は(もちろん他の項に該当しないとして)「電気工事のうち軽微な作業」に該当し、電気工事士の資格は不要となる。今回、電気機器となるのは換気扇であり、これは入力電圧100Vで動作する。このため、上記の制限には該当せず、換気扇に電線を接続する作業は軽微な作業となる。電線には絶縁電線であるIVも含まれるため、IVを換気扇に接続する作業は電気工事士の資格は不要である。

  • ⭕IVを切断(軽微な作業)
  • ⭕IVの被覆を剥く(軽微な作業)
  • ❌IVをスイッチに接続(配線器具に電線を接続する作業)
  • ❌ダイレクトコンセント用コードをスイッチに接続(配線器具に電線を接続する作業)
  • ❌IVを電線コネクターに接続(下の項目と合わせ技一本で電線相互を接続する作業)
  • ❌ダイレクトコンセント用コードを電線コネクターに接続
  • ⭕IVを換気扇に接続
  • ❔スイッチを露出増設ボックスに収める

最後に、スイッチを露出増設ボックスに収める作業である。電気用品安全法施行令によると、配線器具の中にジョイントボックスがあり、露出増設ボックスもこの類であるため、露出増設ボックスは配線器具となる。スイッチを露出増設ボックスに収める作業は、配線器具を配線器具内に収める作業、もしくはスイッチから出ている電線を配線器具に(接続ではなく)収める作業と言える。これらの作業は、電気工事士法施行規則第2条第1項に定められている「電気工事士等でなければ従事できない電気工事の作業」のいずれにも該当しないため、電気工事士の資格なしで実施することができる。

  • ⭕IVを切断(軽微な作業)
  • ⭕IVの被覆を剥く(軽微な作業)
  • ❌IVをスイッチに接続(配線器具に電線を接続する作業)
  • ❌ダイレクトコンセント用コードをスイッチに接続(配線器具に電線を接続する作業)
  • ❌IVを電線コネクターに接続(下の項目と合わせ技一本で電線相互を接続する作業)
  • ❌ダイレクトコンセント用コードを電線コネクターに接続
  • ⭕IVを換気扇に接続
  • ⭕スイッチを露出増設ボックスに収める

結論としては、既に述べたとおり、今回の換気扇スイッチの作成にあたっては、電気工事士の資格が必要となる。こういった作業をする場合には、電気工事士に依頼するか、自分で資格を取得してやろう。

資格不要で換気扇スイッチを作るには

「配線器具に電線を接続する作業」「電線相互を接続する作業」は電気工事士の資格が必要となるため、これらを除いた作業のみとすれば無資格でも換気扇スイッチを作ることができる。具体的には以下のように作ればよい。

  • 換気扇にダイレクトコンセント用コードを接続
  • ダイレクトコンセント用コードをスイッチ付きの延長コードかタップに接続

ただし、強弱の切り替えはできなくなる。これをできるようにしようとすると、最低でも電線相互を接続する作業が発生する(詳細は省略)。

余談

電子工作について

みんな大好き電子工作について。教育の場でも電子工作がやられていたりするので、まさかダメとはならないだろう、とは思いつつも、実際法令ではどのような線引きがされているのか、自分が普段やっているものはその線を越えていないか、というのが気になるので確認した。

電子工作の際の電源の取り方は電池などの外部電源を用いるケースと、ACアダプタを用いるケースがある。まず、外部電源を用いるケース。電気事業法施行令第1条に電気工作物から除かれる工作物として、以下の記載がある。

三 前二号に掲げるもののほか、電圧三十ボルト未満の電気的設備であつて、電圧三十ボルト以上の電気的設備と電気的に接続されていないもの

電気事業法施行令

これを満たしていれば電気工作物ではなくなり、電気工事士法の及ぶ範囲は電気工作物であることから、30V未満の外部電源を用いた電子工作であれば無資格で可能。

一方、ACアダプタを用いるケースを考えると、電気工事士法施行令第1条に、軽微な工事として以下の記載がある。

 電鈴、インターホーン、火災感知器、豆電球その他これらに類する施設に使用する小型変圧器(二次電圧が三十六ボルト以下のものに限る。)の二次側の配線工事

電気工事士法施行令

これに該当するもの、すなわち出力電圧が36V以下のACアダプタの出力側以降の配線は軽微な工事となり電気工事ではないため、電気工事士法の対象から外れ、無資格で実施可能となる。

というわけで、よくある範囲の電子工作の配線には電気工事士の資格は不要である。真空管とか使うやつは知らん。

コンセントから先は制限なし?

調べている中で、「コンセントから先は資格不要」というようなことを言っているサイトを見かけたが、法令を見る限りそのように解釈できる記載はなかった。屋内配線(コンセントまで)とコンセントから先、同じAC100Vが流れているのに扱いが異なるわけがなかろうと思う。

電気工作物と電気機器

電気事業法第2条に電気工作物の定義がある。

十八 電気工作物 発電、変電、送電若しくは配電又は電気の使用のために設置する機械、器具、ダム、水路、貯水池、電線路その他の工作物(船舶、車両又は航空機に設置されるものその他の政令で定めるものを除く。)をいう。

電気事業法

これに、家電などの電気機器が含まれるかどうかがわからない。「電気の使用のために設置」とあるので、延長コードやタップを含んだ配線部分になるという解釈をしている。電気機器は「電気を使用する機器」であり、電気を使用して仕事をするのが目的のものであって、電気を使用することを目的としているものではなく、電気機器に電気を供給するための配線こそが「使用のために設置」するものであるという解釈である。

だが、この解釈が合っているか間違っているかを判断するための情報がない。電気工事士法の逐条解説には、

「一般用電気工作物」とは、(略)と規定されており、概括的にいえば、一般家庭、商店等の屋内配電設備等がこれに該当する。

電気工事士法の逐条解説(略は筆者によるもの)

とあるので、配線に関する部分が主な対象だと思われるが、「等」がどこまで含めるのかが気になる。決定的な情報が見つからずもやもやしている。別にこの解釈が間違っていたからといって重大な問題になるわけではないが、家の中のどこまでが電気工事士法の規制範囲で、どこからが違うのかをはっきりさせておきたいという気持ちがある。

経産省なりに聞けば教えてくれるのかもしれないが、事業者でもない自分が問い合わせるのはちょっと躊躇われる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください